PydanticAIとLangChainの違いと選定指針
ゴール: LLMアプリ開発の2大フレームワークであるPydanticAIとLangChainについて、特徴・メリット/デメリット・使い分けの観点から初心者にも理解しやすく整理します。
1. 誕生の背景
- PydanticAI: Pydanticチームが2024年に発表した新しいLLMフレームワーク。型安全性・検証・開発者体験を重視し、Pythonの型定義とLLMのやり取りを強固に結び付ける。シンプルなAPIで「期待通りの構造化出力」を得ることにフォーカス。
- LangChain: 2022年から急成長したLLMアプリ構築フレームワーク。プロンプトテンプレート、チェーン、エージェント、ツール呼び出しといった概念でLLMの高度なワークフローを組み立てられる。エコシステムとサードパーティ統合が膨大。
2. コア概念の比較
| 観点 | PydanticAI | LangChain |
|---|---|---|
| 中心思想 | 型安全なLLMインタフェース | モジュール化されたLLMパイプライン |
| 出力管理 | BaseModel でバリデーション | OutputParserやStructured Outputチェーン |
| ツール呼び出し | Action を定義し、LLMが選択 | Tool/Agentが多数存在 |
| 非同期処理 | async/await が標準対応 | AsyncChain/Callbackで制御 |
| エコシステム | シンプル、今後拡大中 | 公式・コミュニティ製が豊富 |
3. 代表的なコード例
PydanticAIの例
from pydantic_ai import Agent
from pydantic import BaseModel
class TodoItem(BaseModel):
title: str
priority: int
agent = Agent("gpt-4o-mini", response_model=TodoItem)
result = agent.run("今日やるべきことを優先度付きで1つ教えて")
print(result.priority, result.title)
response_modelで期待する出力構造を宣言すると、LLM応答が自動検証される。- 失敗した場合は再プロンプトや例外処理が自動的に行われるため、初学者でも堅牢な結果を得やすい。
LangChainの例
from langchain.prompts import ChatPromptTemplate
from langchain_openai import ChatOpenAI
prompt = ChatPromptTemplate.from_messages([
("system", "You are a helpful assistant."),
("human", "{question}")
])
model = ChatOpenAI(model="gpt-4o-mini")
chain = prompt | model
result = chain.invoke({"question": "今日やるべきことを優先度付きで1つ教えて"})
print(result.content)
- プロンプト・モデル・出力をパイプ(|)演算子で連結する表現が直感的。
- 構造化出力は
PydanticOutputParserを組み合わせることで実現可能。
4. メリットとデメリット
PydanticAIのメリット
- 型チェックが自動で行われ、想定外の応答を早期に検知できる。
- 書くコード量が少なく、オンボーディングが簡単。
ActionとToolをPython関数として定義しやすく、ビジネスロジックを型で表現しやすい。
PydanticAIのデメリット
- まだ若いプロジェクトであり、サードパーティ連携が少ない。
- 高度なエージェント機能やメモリ管理は自前実装が必要。
- ドキュメントやコミュニティリソースがLangChainほど充実していない。
LangChainのメリット
- チェーン、エージェント、RAG、評価など多様なモジュールが揃う。
- LlamaIndexやVectorDBとの統合が豊富で、検索強化生成に強い。
- コミュニティのサンプルが膨大で、実装例に困らない。
LangChainのデメリット
- 初心者には概念が多く、学習コストが高い。
- 依存関係が多く、軽量なスクリプトにはオーバーキルな場合もある。
- 型保証はオプションのため、テストやバリデーションを丁寧に組む必要がある。
5. 選定のための意思決定ツリー
- 出力の型安全性が最優先か? → YesならPydanticAI。
- 複雑なツール呼び出しやマルチステップ推論が必要か? → YesならLangChain。
- 既存のPythonコードベースと統合したいか? → PydanticAIは標準ライブラリに近い感覚で組み込める。
- 社内で共有できるテンプレートが必要か? → LangChainはPromptHubやLangSmithで共有・監視が容易。
6. 初心者向け学習ルート
| Day | PydanticAI | LangChain |
|---|---|---|
| 1日目 | 基本チュートリアルでresponse_modelを体験 | ChatPromptTemplateで簡単な対話を作る |
| 2日目 | Action を定義しAPI呼び出しを追加 | Tool を用いて外部API連携 |
| 3日目 | 例外処理とリトライロジックを確認 | MemoryとRetrieverを使ってRAGを構築 |
| 4日目 | FastAPIと組み合わせてエンドポイント化 | LangServeでAPI化し、LangSmithでモニタリング |
| 5日目 | チーム用の型ライブラリを整備 | カスタムチェーンをパッケージ化して再利用 |
7. 実務ユースケースの比較
- フォーム入力チェック: PydanticAIで入力値を型として定義し、LLMによる自然言語の補完を安全に取り込む。
- 顧客サポートボット: LangChainのエージェント機能でFAQ検索、工数計算、エスカレーションを自動化。
- 要約+構造化レポート生成: PydanticAIでレポートのスキーマを定義し、LangChainでRAGと評価を組み合わせて高品質を担保。
8. 組み合わせパターン
両者を競合ではなく補完関係と捉えるとシンプルです。
- LangChainでRAGパイプラインを構築し、最終出力部分だけPydanticAIに委ねて型保証を得る。
- PydanticAIで定義した
Agentの内部でLangChainのRunnableを呼び出し、複雑なチェーンを再利用する。 - PydanticAIの厳格なバリデーションを通過した結果のみをLangChainの評価ツール(LangSmith)でモニタリングする。
flowchart LR
A[ユーザー入力] --> B[LangChain Retriever]
B --> C[LangChain Chain]
C --> D[PydanticAI Agent]
D --> E[構造化レスポンス]
E --> F[FastAPI]
🎯 まとめ: 型安全性とシンプルさを求めるならPydanticAI、豊富なエコシステムで複雑なワークフローを組みたいならLangChainが適しています。実務では両者を組み合わせ、LangChainでデータ収集と推論を行い、PydanticAIで最終結果を検証するハイブリッド構成が初心者にも扱いやすくおすすめです。
